乳幼児の教育に携わる人ならば、ここ数年、「ヘックマン」という名前をよく聞きます。もう一種の流行りとも言えます。(笑)
ジェームズ・J・ヘックマン氏は、2000年にノーベル経済学賞を受賞した研究者です。
その研究内容は、簡単に言うと、幼児期から40年間に渡って追跡調査を行い、幼児期の教育への介入がどれほどの経済効果を生むのか、というものです。
この研究によれば、幼児期に適切な教育環境にある子どもは40歳時点での様々なスキルが、そうでない子どもよりも高いという結果になりました。
研究対象は、就学前の低所得の家庭58世帯の子どもを対象とした「ペリー就学前プロジェクト」を受けた子どもたちです。
その子どもたちが40歳時点での、教育的効果や経済効果、逮捕者率などを数値化して表しています。そのどれもが、研究対象の子どもたちの方が、その対照グループよりもいい結果を生んでいます。
就学前の教育的介入によって、国により利益をもたらし、何よりも、本人の人生における幸福度にも関与します。
ただし。
就学前の教育的介入はどんなものでもいいかというと、そうではなく、「質の高い」ものでないといけないのです。
では、質の高い教育的介入というのは、どういった内容のものなのでしょうか。
「教育」というと、どうしても認知的なスキルばかりが取り上げられますね。
よみ・かき・さんすうに代表される、いわゆる「おべんきょう」です。
これらは一般的に認知スキルと呼ばれます。
一昔前の受験などは、この認知スキルのみあればOKでした。知識の注入でよかったわけですね。
対して、社会的なスキル、コミュニケーション能力、情緒的なスキルなどを非認知スキルと言います。
これは、社会的な常識を守れたり、他者と円滑なコミュニケーションが取れる、協力し合える力だったり、我慢できる力だったりを言います。
ヘックマンは、研究の結果、認知スキルももちろん大事だが、人生においては、それよりも非認知スキルの方が重要だと述べています。
ちょっと難しいので、簡単な身近な例になぞらえてみますね。
社会に出たとき、仕事や生活を行う上で、どういった力があると、長く仕事を続けられ、穏やかな生活が送れるでしょうか?
「あの人頭はいいんだけど、人と協力できないよね」
「すぐキレて話し合いにならないよね」
「高学歴なのに仕事続かないよね」
ということです。
いくら知識があっても、それを生かすことができなければ、世の中の役には立ちません。知識があっても、人と協力できなければ、孤独になるだけです。知識があっても、仕事が続かなければ、生活に困ります。
逆に、知識はそれほどなんだけど、コミュニケーション能力が高かったり、コツコツと仕事を続けることができたり、柔軟性があったりすれば、困ったときに誰かの助けを借りることができます。孤独でもありません。
どちらを選ぶかは、もちろん本人次第ではありますが、国として公的な教育となれば、やはり効果が高い方を基準とするのが当然です。
特に、日本においては、引きこもりやニートの多さ、自殺者の多さ、精神疾患を抱える人の多さなど、今回の研究結果に関係がないとはいいきれない状況が何年も右肩上がりで増え続けています。
教育のあり方を本気で見直していく時期なのではないでしょうか。