さてさて。
Aさんという架空の人物の架空のエピソードを3回に渡って書いてきましたが、いかがでしたか?
すべて架空の話ではありますが、エピソードの部分部分は実際に世の中で事例としてあったケースを話を変えて使っています。
Aさんが診断された「鬱病」は、ドクターによっては、「適応障害」などとされることもあります。
そこはおいておいて、今回のポイントとも言うべきところは、Aさんが併せて診断された「自閉症スペクトラム」にあります。
話の中にいくつもの特徴的なAさんの傾向があります。
・マニュアル通りでないと気が済まない
・自分のことは棚に上げて、人へはしっかり注意する
・柔軟性に乏しい、臨機応変な行動が難しい
・年齢が上か下かなど、分かりやすい指標が判断基準になり、その判断基準がすべてとなる
・相手の都合は考えず、自分の思い描いたルールや予定にこだわる
などです。
小さいころからのAさんの話の中にもいくつか特性が見られます。
・おとなのいうことをよく聞く子だった(マニュアルや指示は得意)
・リーダーシップがあった(他者からの評価は事実とは違っても、自分ではそうだと思いこんでいる)
・他者に逆切れされることが多かった(他者の気持ちに共感したり、理解したりに乏しいため、ルールを押し付けるから文句を言われてしまう)
・マニュアルや指示があると、そのことはできるが、それらがないと対応ができない
・勉強はでき、大学進学までしているので、知的には課題がない
などです。
注意しないといけないところがもう1点あって、例えば、人を見下すようなAさんの態度や考えが、このエピソードの中にいくつかありますが、これらは、そもそもの特性というより、Aさんがそれまで生きていた中で、思い通りにならないことが多かったため、自分の自尊心を守ろうと身に付けた防衛反応のひとつである、という点です。
Aさんにとっては、悪気はもちろんなく、相手を傷つけようという意図もありません。
基本的に真面目であり、融通がきかないだけなんですが、他者理解に欠けるために、他者とうまくいきづらいわけです。
小さいころは、周りにいる友だちは、気が弱ければAさんには逆らいませんし、優しい子だと受け入れてくれます。
ただ、年齢が上がると共に、それぞれが自分の人生でいっぱいいっぱいになり、余裕がなくなってきますし、それぞれがおとなになっていくわけですから、いつまでも子どものままの関係性ではなくなっていくわけです。
Aさんがせっかく1週間の休暇の間に友だちに会おうと思っても、そういった理由から、友だちの方は相手をしてくれないのです。
lineを既読スルーした友だちは、きっと、返答に困っている内に立て続けにAさんから連絡があったことで、相変わらず自分のことばかりだな、と呆れてしまったのかもしれません。
学生時代までと社会に出てからとでは、その間に結構大きな見えない壁があります。
特に今回の例のAさんのような特性を持つ自閉症スペクトラムの場合、学生時代は特に問題なく、気づかれないまま放置されてしまったケースで、社会に出て、途端に他者と共同で何かをやっていく仕事に就いて初めて、Aさんが抱える課題に気づいた、となることが往々にしてあります。
しかも、鬱だとか適応障害だとかを発症してしまってますから、完治するのには時間がかかります。
そこで、今回の一連の話の冒頭部分の、早期発見に話が戻るわけです。
もちろん現実世界では、時間を巻き戻すことはできませんから、仮の話になりますが、仮にAさんが、乳幼児期にその特性を誰かに知ってもらっていたら、どうなったでしょう?
きっと、「そういう特性を持つ人なんだ」ということで、理解してくれる人が一人か二人はいたはずです。
それに、本人も、自分にはそういうところがあるから、気づいたら注意してね、とも言えたはずです。
マニュアル通りにしか動けないAさんに、世の中はマニュアル通りにはいかないことを、もっと早くから伝えてあげることも可能だったはず。
事前に情報があれば、Aさんなりの対応は可能ですからね。
もちろん、おとなになって初めて挫折を味わったからといって、人生が終了するわけではないのですが、それでも中には、就職に失敗したからと自殺してしまう人だっているわけですし、たったひとつの会社で不適応を起こしてしまったことで、そのまま引きこもってしまう人だっています。
今回のAさんの場合は、小中学校などでいじめには合っていませんから、ラッキーな部類ですが、いじめにあってしまって早々に不登校、というケースもなかにはあるわけです。
不登校や引きこもりがイコール人生の終わりとは思いませんが、避けることができるのならば、避けたほうがいいですよね。
自殺はできることなら、ではなく、絶対に避けたいことです。
そのために、できるだけそういったことを避けるために、早期発見が重要になってくるわけですが、この早期発見は、「診断名をつける」ことではありません。
結構みなさん、関係機関の人たちも勘違いしがちなんですがね。
早期発見は、「特性を知って、特性に応じた配慮のため」に行うものです。
ですから、無理強いするものでもないですし、必ずしも診断名が必要になるものでもありません。
たいてい、親というものは、自分の子どもがどんな性格をしているか、って結構正確に理解しているものですよね。
ただし、親にも発達の課題がある場合は、なかなか正確な子どもの発達理解は難しさがあります。
その辺が、最近の研究などから少しずつ分かってきていますが、それはまた別の機会に書きたいと思います。