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子どもエッセイ

おとなの発達障害②

2016/09/02

さて

Aさんのお話の続きです。

部署内でBさんを怒鳴りつけてしまったAさん。

あまりの出来事に、部署内は一瞬、時が止まったかのような静寂に包まれます。

すかさず、チームリーダーが声をかけにきます。

Aさんは事情を説明して、Bさんが反抗的だったから、と言い訳をしました。

Bさんは、先輩に対して失礼な物言いだったかも、ということで頭を下げました。

リーダーは、Bさんに仕事に戻るように伝え、Aさんは、リーダーと別室で話をすることになりました。

Aさんは、リーダーに事の顛末を一部始終話します。マニュアルを守らないBさんが悪い!とも訴えます。

しかし、リーダーからは、「Aさんが真面目なのはわかるが、仕事はマニュアル通りにはいかないものだよ」とたしなめられてしまいます。

リーダーからもBさんと同じことを言われ、混乱するAさん。

その後のリーダーとの話は、Aさんはもう上の空です。

そういえば、研修期間のグループ討議の時も、周りの参加者は自分に反対意見ばかりだったな。

そういえば、これまでも、先輩たちからは注意ばかりで、柔軟性を持って、だとか、臨機応変に、だとか言われるばかりだったな。

それに加え、今回は、リーダーからも同じこと言われたな。

自分は間違ってないのに!

そうか。

うちの部署はみんな頭が悪いんだ!自分のいうことが理解できないんだな!

これは、うちの部署の業績を上げるためにも、自分がもっと率先して、みんなのレベルを上げてやらないとな!

Aさんは、自分を省みるどころか、他の人が悪いと思いこんでいます。

そんな状況ですから、翌日からは、Aさんは、これまで以上に張り切って仕事に臨み始めました。

チーム内だけでなく、部署内の他のチームにまで口を出し、あれこれと助言します。

とうとう、Aさんのチームリーダーのところに、他のチームからの苦情が寄せられるようになりました。

そりゃそうですよね。(笑)

Aさんのチームのリーダーは、またもやAさんと別室で話します。

Aさんは、自分が正しいのに、周りが無能だと言い張ります。

困ったリーダーは、課長と部長に相談しました。

課長と部長はリーダーの話を一通り聞き、Aさんの部署内での動きも、別チームから報告があっていたので、話はスムーズでした。

課長は顔をしかめています。Aさんの真面目さは、部署内では誰もが知っています。Aさんにとっては、仕事をきっちりやっているだけですから、Aさんを無碍に責めるわけにもいきません。

それはリーダーも同じ意見です。

そこで部長が一言。

「Aさんはちょっと何か課題があるのかもしれないな」

運よく、部長の息子さんがお医者さんで、発達障害を専門としているとのこと。

息子さんと同居している部長は、日ごろから、発達障害に関しての知識を今後の仕事に役立つかもと思い、息子さんから教えてもらっていたのです。

一度、Aさんを部長の息子さんに診せてみようとなりました。

ただ、どうやって受診を勧めていくか。そこが問題です。

Aさんは、自分が悪いとは少しも思っていませんから。

幸い、Aさんの勤める企業は、大手まではいかなくとも、そこそこしっかりした会社で、福利厚生もしっかりしています。

様々な病気などでの休職も認められているので、社員の権利は十分守られます。

もし、Aさんに休職が必要な時は、その制度が使えますし、病院などの受診に対しても肯定的な会社です。

ここは直属の上司のリーダーより、もっと立場が上の課長や部長が命令という形をとる方法がベストではないか、ということで、部長がAさんに指示することになりました。

数日たって、部長はAさんに、部長の息子さんが勤める病院で受診するように指示を出しました。

Aさんは、上司命令ですから、逆らえません。しぶしぶですが、受診することにしました。

次の週になって、Aさんは、予約通り、部長の息子さんが勤める病院へ行きました。

Aさんは、受診する科が精神科であることにも不満でした。さも自分がおかしい者扱いされている気がするからです。

でも、待合室を観察してみると、結構人が多くいます。年齢や性別も様々で、若い女性もいます。Aさんから見て、いわゆる頭のおかしい人、という様なこれまでAさんが抱いていたイメージとは違う人ばかりです。

精神科といわれなければ、内科などの待合室とまったく様子は変わりません。

Aさんは、少し安心しました。

さて、いよいよAさんの名前が呼ばれました。

診察室に入ります。お医者さんは、部長の息子さんです。

年はAさんよりも一回り程上だと聞いています。

年上ということもあって、Aさんは話しやすそうだな、と感じました。

お医者さんは、柔らかい笑顔で、挨拶しました。

とても落ち着いた声でした。Aさんはそこでもまたひとつ、安心しました。

Aさんは、お医者さんから尋ねられたことにちゃんと答えていきます。

1年目は失敗ばかりだったが、マニュアル通りにやっているだけなのに失敗するから、マニュアルに不備があるわけで、自分は真面目にやっていること。

社内の他の人達が、マニュアル通りに動かないことが腹立たしいこと。

マニュアルがあるのに、柔軟性を持て、とか、臨機応変に、とかお門違いの指導ばかりされること。

自分は先輩なのに、後輩から口答えされて頭にきたこと。

先輩たちはみんな後輩の味方で、自分の味方はいないこと。

自分は間違っていないのに、注意ばかりされること。

自分の言うことが理解してもらえないのは、周りが無能だから。だから、自分がもっと周りを引っ張っていかないといけないということ。

お医者さんは、カルテにメモをしながら、時に相槌を打ちながら、Aさんの言い分をゆっくり時間かけて聞いてくれました。

一通り話したことで、Aさんは少しスッキリしました。

お医者さんも、笑顔で、それは良かったですね、と言ってくれました。

そして、

「もっとAさんのこと知りたいので、来週も来てもらえますか?」

との申し出がありました。

Aさんは、ちゃんと話を聞いてくれるお医者さんにすっかり好意を抱いていますので、もちろん、快諾しました。

次週の診察の予約を入れ、第1回目の診察はこれで終えました。

お医者さんからは、仕事は無理のない範囲で行く分にはかまわないけど、疲れているようだからお休みできるなら休んだら?とのことだったので、そのままリーダーに伝え、次の週の受診までお休みをもらうことにしました。

思わぬ1週間の休みができたので、Aさんは、久しぶりに学生時代の友だちとあってみようと思い立ちました。お医者さんにもすすめられたからです。

そこで、中学時代、高校時代、大学時代の友だちに連絡を取ってみることにしました。

 

(またまた続く)

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