一昔前までは、子どもは叩いて怒鳴って言うことを聞かせるものだという考えが多くありました。特に、福岡ではそういった考えが大多数だったように思います。
ところが、近年は、子どもへの行き過ぎた体罰や心理的な負担などは虐待と位置付けられます。
虐待の種類には、ネグレクトや心理的虐待、身体的虐待、性的虐待などの種類がありますが、ネットやメディアなどの普及により、子育て世帯だけでなく国民全体が「虐待」という言葉は広く知っていることと思います。
少子社会になるにつれ、社会から子どもの数が減り、一人の子どもに向けられる大人の「目」の絶対数は、時代を追うごとに増えていっています。そのため、虐待も発見が早くなり、児童相談所などへの通告は年々増加傾向にあります。
平成2年には、児童相談所への虐待相談は1102件でした。昨年度の虐待相談は103260件です。(共に全国208か所の児童相談所における総数。厚生労働省の発布による)
この25年でおよそ94倍にも膨れ上がったこの数値は、単純に子どもへの「目」が増えたことだけで済む話ではないような気がします。
子育て世帯の核家族化と、家族神話の崩壊、保護者世代の経験不足や子育て世代の孤立、子どもそのものを受容できない大人と社会、団塊世代の金至上主義・学歴至上主義とその被害に遭った保護者世代などなど、様々な要因が複雑に絡み合っての数値であると考えています。
どうも保護者が育ってきた環境にも要因がありそうですね。満たされない子ども時代送ったおとなは、自分がいざ親になった時、極端になりがちです。自分がされてきたことと同じことを我が子に施すか、逆に自分がされて嫌だったからまったく自分とは真逆の方法で育てていくか。
どちらがどう、ということは一概に言えませんが、もし、自分がされてきたことが、子どもの主体性や自主性を阻むようなものであったとしたら・・・。同じ方法で我が子への育児を行ったら・・・。
ここで「負の連鎖」が生じます。
もちろん、子どもはそれぞれ個性があり、性格や能力もまちまちですから、生まれつきの性格上、逆境に強い子どももいるかもしれません。(ただし、おとなを信用はしませんけどね、そういう子どもは。)スパルタで育ち、能力は高く、何らかの結果を残す子どももいることでしょう。虐待にあったとしても、それを乗り越えて、必死で生きているおとなも現にいるわけですし。
まぁ、数々の論文等では、乗り越えたつもりでも、精神疾患や愛着障害などに苦しむ、という報告が多いですけどね。
話を元に戻して。
虐待が虐待を生んで、また虐待を生む。何世代にも渡って、虐待が連鎖されていくわけです。
おとなは虐待のつもりは全くありません。
よくニュースなどになっている事件でも、親の側は、皆一様に言いますよね。
「しつけのつもりだった」
と。
あれはきっと本音だと思います。親は必死で、がんばって、自分なりに子どものことを考えて、愛しているわけです。(例外もありますけどね)
どこからがしつけで、どこからが虐待なのか、その線引がわからないわけです。
その線引きは、おとながするものではありません。
子どもがどう感じているか。
これが虐待かそうでないかの線引になります。
ですから、どんな状況であっても、子どもが損得勘定とか、親から見捨てられる不安とかそういったものを一切抜きにして純粋に、「自分は満たされている」「愛されている」と思えば、虐待ではないですし、逆に、「自分は蔑ろにされている」「嫌われている」と子ども自身が感じれば、虐待にあたる場合も多いということです。
この考え方が、日本人はできないし、わかろうとしない。
子どもはおとなの所有物であるとの考えが強い日本人は、過去に「家」や「自分」を守るために子どもを売りに出す、という歴史を持っています。
そんな時代から何十年何百年経過していても、未だにその考えが根っこにあるのでしょうね。
DNAに刻まれてるのかしら???
それはさておき、子どもは親の所有物という考えですから、親の言うことを聞くのが当たり前、親の都合で動かすのが当たり前、親の望む生き方をするのが当たり前。
ですから、そういった親の元で育った子どもは、基準が「モラル」とか「常識」とか「法律」ではなく、「自分の親に怒られない・気に入られる」ことになるわけです。
平成26年度から27年度にかけて、虐待相談の中でも群を抜いて増えたのが「心理的虐待」でした。併せて、警察からの通告も同様で、それぞれ1年間で1万件近く増えています。
それだけ、「子どもの人権」に目を向ける人が増えてきたことの証でもあると思います。
ちなみに、心理的虐待が増えた要因のひとつとして、家庭内での配偶者へのDVが急増していることが挙げられています。
DVも最近はほんとに多いですよね。
これまでは男性から女性へのDVがほとんどだったんですが、最近は、女性から男性へのDVも増えているとのこと。
身体的なDVはもちろん、男性へ対しての心理的なDVも増加傾向とのことです。
よくありますよね。
奥さんが旦那さんに「給料をもっと持ってこい」とかああいった言葉。
あれも立派なDVです。
旦那さんが働いていないとか仕事が続かないっていうなら話は別ですけどね。
普通に一生懸命働いて、給料もっとよこせって、そりゃあないです・・・。
言われたらツライ・・・。
逆に、旦那さんが奥さんに、「子どもと遊んでいるだけでいいんだから楽だな」とかいう自分だけが忙しい大変アピール。
育児をなめんなって話ですね。
あれも、頻度が多くて相手を見下したものであれば、モラルハラスメントというDVの一種です。
そう考えると、子どもへの虐待が増加傾向って言うのは頷ける話ですね。
だって、おとなが互いにののしり合っているんですからね。
夫婦だけでなく様々なところで、どうにかして相手を自分より下にしたいおとながたくさんいます。誰かをバカにして、揚げ足を取って、ミスを犯そうものなら集中して文句。
自分の意見を通すために、相手の意見は2の次で、間違っているのは自分以外。誰かを悪者に仕立て上げないと気が済まない。
ミスしたくてする人はいないでしょう?
誰もが一生懸命生きているんじゃないですか??
本当に誰か一人とか相手だけが悪者ですか????
そんな単純なものですか?????
そういったおとなに育てられた子どもは、どういう心理なんでしょうか。
同じようなおとなになっていくのでしょうか。
ただひとつ。
これだけは言えますが、子どもは自分を取り巻くおとなが揉めていると、まるで自分の気持ちを真っ二つにされたような気持ちになります。
夫婦喧嘩を子どもの前でしてはいけないということの理由はここにあります。
子どもの精神が不安定になってしまうからです。子どもからすれば、父親も母親もおじいちゃんもお祖母ちゃんもみんな好きですからね。
もし、家族の中の誰かを嫌い、と子どもが言う場合は、それは嫌っている人以外の家族による洗脳です。
「人を嫌う」という感情は、最初は、大人が教えて見せるものだからです。
もちろん、生きていくうえで、苦手な人だって出てきます。嫌だなって思う人も出てきます。
ですが、それを嫌いだって言っていじわるするのは人としてダメですよね。
うまく距離を取って、触れ合わないようにすればいいだけです。
距離を取ることで、それまでは見えてこなかったいい部分も見えてくるかもしれません。
なんだか、いつの時代も、被害に遭って嫌な思いをして、しわ寄せが行くのは子どもなんですよね。
せめてうちの園にいる間だけでも、子どもたちにはそういう思いを味わってほしくないなぁと思います。そのためにも、いくら保護者に文句を言われようと、やっぱり私たちは、子どもを主体に話を進めていくしかないわけです。
それが保育者としての仕事ですからね。